このページの要点

母子留学は家族が2国に分かれるため、住民票・税・手当・保険が人ごとに別々に動きます。

  • 扶養控除は母だけ要件が変わる:所得税法第2条第1項第34号の2は、非居住者の控除対象扶養親族を「16歳以上30歳未満」「70歳以上」と、30歳以上70歳未満で①留学により国内に住所及び居所を有しなくなつた者②障害者③年38万円以上の送金を受けている者のいずれかに限定しています。
  • 16歳未満の子はそもそも扶養控除の対象外:同号はイ(居住者)ロ(非居住者)とも16歳以上を要件としています。小学生の子は控除ではなく児童手当の側で見ます。
  • 父が日本に残るなら児童手当は父が受給しうる:児童手当法第4条第1項第1号の要件は「日本国内に住所を有するもの」です。父母指定者(同項第2号)の指定は通常不要になります。

母子留学について調べると、出てくるのはほとんどが体験談です。滞在先の様子や子どもの変化は分かりますが、実務でつまずくのはそこではありません。 家族が2国に分かれることで、住民票・扶養控除・児童手当・国民健康保険が、それぞれ違う基準で人ごとに判定されるようになります。しかも制度ごとに基準が違うため、「母子は転出、父は残留」という同じ状況でも、制度によって結論が変わります。この記事では法令の原文をもとに、そこだけを整理します。親子留学全体の手続きは親子留学とは、費用の計算は親子留学の費用をご覧ください。

本記事の条文は、所得税法・児童手当法・国民健康保険法・地方税法(e-Gov法令検索の法令原文)を当サイトが2026年8月18日に取得して整理したものです。「留学により国内に住所及び居所を有しなくなつた者」に該当するかどうかの判定、および必要な証明書類は個別の事情によります。 また住民税・国民健康保険料の額、児童手当の額は自治体や改正によって変わるため本記事では金額を示していません。実際の取り扱いは、勤務先の年末調整担当・税務署・お住まいの市区町村の窓口で必ずご確認ください。

結論:制度は「家族単位」ではなく「人単位」で動く

POINT

母子留学でいちばん誤解が起きるのはここです。世帯でまとめて扱われる制度と、個人ごとに判定される制度が混ざっています。

母子留学とは、母親が子どもに同行して海外に滞在し、父親(配偶者)は日本に残る形態を指します。家族全員で渡航する場合と違い、日本側に家族が残るという点が、制度の扱いを複雑にします。

混乱の原因は単純で、制度ごとに判定の基準が違うからです。まず全体を1つの表で押さえます。

母子が海外転出し、父が日本に残る場合(各法令の条文から当サイトが整理)

制度判定の単位母子(転出)父(日本に残る)根拠
住民税個人1月1日に住所がなければ当年度分は課されない変わらず課される地方税法 第294条・第318条
国民健康保険個人住所を有しなくなった日の翌日に資格喪失資格は動かない国民健康保険法 第5条・第8条
扶養控除個人(年齢で要件が変わる)子は年齢で該当。母は30歳以上だと追加要件控除を受ける側所得税法 第2条第1項第34号の2
児童手当受給者母は対象外になる父が受給しうる児童手当法 第4条

表のとおり、「母子留学だからこうなる」という一括りの答えはありません。 制度ごとに見る必要があります。以下、影響が大きい順に扱います。

扶養控除:子は年齢で該当し、母は追加要件が生じる

POINT

ここが母子留学に固有で、かつ金額として効く論点です。上位の体験ブログにもエージェント記事にも出てきません。

所得税法第2条第1項第34号の2は、控除対象扶養親族を次のように定めています。イ 居住者 年齢十六歳以上の者。ロ 非居住者 年齢十六歳以上三十歳未満の者及び年齢七十歳以上の者並びに年齢三十歳以上七十歳未満の者であつて次に掲げる者のいずれかに該当するもの。(1)留学により国内に住所及び居所を有しなくなつた者(2)障害者(3)その居住者からその年において生活費又は教育費に充てるための支払を三十八万円以上受けている者

この条文を母子留学に当てはめると、子と母で扱いが分かれます。

非居住者になった場合の控除対象扶養親族の判定(所得税法第2条第1項第34号の2 ロ)

対象年齢扱い
子(高校生・大学生など)16歳以上30歳未満年齢だけで該当(追加要件なし)
子(小学生・中学生)16歳未満そもそも控除対象扶養親族ではない(イ・ロとも16歳以上が要件)
30歳以上70歳未満(1)留学により国内に住所及び居所を有しなくなつた者/(2)障害者/(3)年38万円以上の送金を受けている者 のいずれかに該当することが必要
30歳未満年齢だけで該当

16歳未満の子は扶養控除では見ない

見落とされやすいのが2行目です。小学生・中学生の子は、日本にいても海外にいても控除対象扶養親族ではありません。 条文がイ・ロとも「十六歳以上」を要件としているためです。したがって母子留学で小学生の子を連れて行く場合、扶養控除の観点で気にすべきは母の側だけということになります。16歳未満の子については、後述する児童手当の側で見ます。

母が30歳以上の場合に確認すること

母が30歳以上70歳未満で非居住者になる場合、父が母を扶養控除の対象にするには前掲の(1)〜(3)のいずれかが必要です。実務的に関係するのは(1)と(3)でしょう。(1)は「留学により」とあるため、母自身が語学学校等に通う形をとっているかどうかが関わります。 ただし該当するかの判定は個別の事情によるため、条文だけで結論を出さないでください。(3)は年38万円以上の生活費・教育費の支払いという金額基準です。

確認ポイント:非居住者の親族について扶養控除を適用する場合、関係を証明する書類や送金を証明する書類の提出を求められます。 本記事では所得税法施行規則の原文まで確認していないため、具体的な書類名は挙げていません。また「留学により国内に住所及び居所を有しなくなつた者」に該当するかの判断も、条文の文言だけでは決まりません。年末調整であれば勤務先の担当部署、確定申告であれば税務署に、渡航前の段階で確認してください。 送金の記録が要件になる場合、渡航後に遡って作れないため、先に確認しておくことが実務上重要です。

児童手当:父が日本にいるなら父が受給しうる

POINT

全員で渡航する場合より、母子留学のほうが手続きは単純になります。

児童手当法第4条第1項第1号は、支給対象を支給要件児童を監護し生計を同じくする父母等であって「日本国内に住所(中略)を有するもの」と定めています。母子が海外転出すると母は対象から外れますが、父が日本に住所を有していれば、父が受給しうることになります。

同項第2号には父母指定者の規定があります。これは「日本国内に住所を有しない父母等」がその生計を維持している児童と同居する者などを指定する制度で、父母の両方が海外にいる場合に意味を持ちます。母子留学で父が日本に残るのであれば、この指定は通常必要ありません。

ただし、受給者を母から父に変更する手続きは必要になります。支給額・所得制限は改正が重ねられているため本記事では金額に触れていません。 受給者の変更手続きとあわせて、お住まいの市区町村の窓口でご確認ください。

住民票・国民健康保険は個人ごとに動く

POINT

世帯で一括ではありません。母子だけ転出届を出すことができ、父の分は影響を受けません。

国民健康保険の資格は個人単位です。国民健康保険法第5条が「都道府県の区域内に住所を有する者」を被保険者と定め、第8条第1項が「住所を有しなくなつた日の翌日」から資格を喪失すると定めています。したがって母子だけが海外転出すれば、母子の資格は失われ、父の資格は動きません。

費用面では、母子分の保険料は止まる一方、母子は日本の公的医療保険が使えなくなります。 現地の保険か海外旅行保険で備える必要があります。父が会社の健康保険に加入していて母子がその被扶養者になっている場合は扱いが変わるため、加入している保険の種類を先に確認してください。

住民税は地方税法第294条で「市町村内に住所を有する個人」に課され、第318条で賦課期日が「当該年度の初日の属する年の一月一日」と定められています。母子が1月1日より前に海外転出していれば母子の当年度分は課されませんが、父の分は変わらず課されます。 この論点の詳細は親子留学の費用で整理しました。

避けたい

「家族の手続きは世帯単位でまとめて処理される」と考えて、窓口に一度行けば済むと想定する

こうすればOK

制度ごとに判定の単位が違います。 住民票・国民健康保険は個人単位、扶養控除は年齢で要件が変わり、児童手当は受給者を誰にするかの問題です。渡航前に「税」「保険」「手当」を別々に確認してください

避けたい

扶養控除は今までどおり続くものとして家計を組む

こうすればOK

母が30歳以上で非居住者になる場合、追加の要件が生じます(所得税法第2条第1項第34号の2 ロ)。送金の記録が要件になる場合は渡航後に遡って作れません。渡航前に勤務先か税務署で確認してください

避けたい

16歳未満の子について扶養控除の心配をする

こうすればOK

16歳未満の子はそもそも控除対象扶養親族ではありません(条文がイ・ロとも16歳以上を要件としているため)。この年齢帯は児童手当の側で見ます

子どもが高校生になったときの費用も並べておく

母子留学を将来の高校留学・海外進学の下見として考えているなら、本番の費用感を知っておくと配分が決まります。費用シミュレーターは1か月〜1年の海外留学を試算するツールです。

渡航前に確認する順序

POINT

制度ごとに窓口が違うため、順番を決めておくと二度手間になりません。とくに税は渡航前でないと間に合わないことがあります。

  1. 1期間を仮に置く:短期で住民票を残すのか、長期で海外転出届を出すのか。ここが決まらないと他の制度の判定が始まりません。
  2. 2勤務先の年末調整担当(または税務署)に扶養控除を確認する:母が30歳以上なら追加要件の該当可否と、必要な書類。送金の記録が要件になる場合、渡航後に遡って作れないため最優先で確認します。
  3. 3加入している健康保険の種類を確認する:国民健康保険か、父の勤務先の健康保険の被扶養者か。被扶養者の場合は取り扱いが変わります。
  4. 4市区町村の窓口で住民票・児童手当をまとめて確認する:転出届の時期、児童手当の受給者変更、住民税の扱い。税務担当と子育て担当が別窓口のことがあります。
  5. 5在籍校と教育委員会に学籍を相談する:欠席の扱いと帰国後の学年配当。詳しくは親子留学とはで整理しています。お子さんが小学生なら、休学の制度がなく進級も成績で判定されるため確認事項が変わります(小学生の親子留学)。

この順序の要点は、2番目を早く済ませることです。住民票や児童手当の手続きは渡航直前でも間に合いますが、扶養控除の要件は「その年に何をしたか」で判定されるため、渡航後に気づいても打ち手がありません。

生活面で先に決めておくこと

POINT

制度の話とは別に、家族が離れて暮らすことによる負担があります。ここを曖昧にしたまま出ると、期間の途中でつらくなります。

母子留学では、日本に残る父と、海外の母子の双方に負担が生じます。 母は慣れない環境で子どもの生活と学校のすべてを1人で担い、父は日本で家事と生活を1人で回すことになります。どちらも「一時的だから」で乗り切れる期間には限りがあります。

先に決めておくと楽になるのは次の3点です。①連絡の頻度と時間帯(時差があるため「気が向いたら」では続きません)②父が渡航する時期(学期の区切りや長期休暇に合わせて予定を先に押さえる)③期間の見直しをする時点(「3か月経ったら続けるか話し合う」と決めておくと、途中でつらくなったときに判断ができます)。

出発前に決めておく3点(当サイトの整理)

決めること決めないとどうなるか決め方の例
連絡の頻度と時間帯時差があるため「気が向いたら」では続かず、次第に間隔が開く曜日と時刻を固定する(例:毎週日曜の朝/現地の夜)
父が渡航する時期学期や長期休暇と噛み合わず、結局一度も行けないまま終わる出発前に往復の予定を押さえる(学期の区切りに合わせる)
期間を見直す時点つらくなったときに「やめる=失敗」に見えて判断できなくなる「3か月経ったら続けるか話し合う」とあらかじめ決めておく

また、目的が「子どもを英語に触れさせること」だけであれば、家族が分かれる負担に見合うかを一度考えてみてください。 国内には数日から2週間で英語漬けの環境に入れるプログラムがあり、独立行政法人が全国28の施設で実施している体験活動も含まれます(イングリッシュキャンプとは)。 より長い期間を国内で過ごすなら国内留学、お子さんが高校生なら単独で行く短期留学も選択肢に入ります。母子留学に意味が出るのは、母自身も現地で学ぶ・働き方を変える・将来の移住を検討しているといった、母側の目的が併存する場合です。

まとめ:制度は人ごとに、税は渡航前に

母子留学で実務がつまずくのは、渡航先の選び方ではなく家族が2国に分かれることで制度が人ごとに別々に動く点です。住民票と国民健康保険は個人単位で判定され、母子だけが転出しても父の分は動きません。児童手当は父が日本にいれば父が受給しうるため、父母指定者の指定は通常不要です。

最も見落とされているのが扶養控除です。所得税法第2条第1項第34号の2は、非居住者の控除対象扶養親族を「16歳以上30歳未満」「70歳以上」と、30歳以上70歳未満で①留学により国内に住所及び居所を有しなくなつた者②障害者③年38万円以上の送金を受けている者のいずれかに限定しています。つまり子は年齢だけで該当するのに、母は30歳以上だと追加要件が生じます。 一方、16歳未満の子はそもそも控除対象ではありません(条文がイ・ロとも16歳以上を要件としているため)。

順序としては、①期間を決める →②扶養控除を勤務先か税務署で確認する →③加入している健康保険の種類を確認する →④市区町村で住民票・児童手当を確認する →⑤在籍校と教育委員会に学籍を相談する、が実務的です。②を早く済ませるのが要点で、送金の記録が要件になる場合は渡航後に遡って作れません。

最後に、生活面の設計も忘れないでください。連絡の頻度、父が渡航する時期、期間の見直しをする時点。この3つを出発前に決めておくと、途中でつらくなったときに判断ができます。母子留学に費用と負担をかける意味が出るのは、子どもの英語だけでなく母側の目的も併存する場合です。費用の計算は親子留学の費用、手続き全体の設計は親子留学とはをご覧ください。

Q.母子留学の間、扶養控除はこれまでどおり受けられますか。

子と母で扱いが分かれます。 所得税法第2条第1項第34号の2は、非居住者の控除対象扶養親族を「16歳以上30歳未満の者」「70歳以上の者」、および「30歳以上70歳未満の者であって①留学により国内に住所及び居所を有しなくなつた者②障害者③その居住者からその年において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受けている者のいずれかに該当するもの」と定めています。したがって高校生・大学生の子は年齢だけで該当しますが、母が30歳以上70歳未満の場合は①〜③のいずれかを満たす必要があります。①に該当するかは個別の事情によるため条文だけで判断せず、渡航前に勤務先の年末調整担当か税務署にご確認ください。③の送金要件に該当させる場合、記録は渡航後に遡って作れません。

Q.小学生の子を連れて行きます。扶養控除はどうなりますか。

16歳未満の子は、日本にいても海外にいても控除対象扶養親族ではありません。 所得税法第2条第1項第34号の2は、イ(居住者)ロ(非居住者)のいずれも「十六歳以上」を要件としているためです。したがって小学生・中学生の子について扶養控除を心配する必要はなく、母子留学で確認すべきは母の側だけということになります。16歳未満のお子さんについては、扶養控除ではなく児童手当の側で扱いを確認してください。父が日本に住所を有していれば、児童手当法第4条第1項第1号の要件を満たすため父が受給しうる形になります。

Q.児童手当は止まってしまいますか。父は日本に残ります。

父が日本に住所を有していれば、父が受給しうる形になります。 児童手当法第4条第1項第1号は、支給対象を支給要件児童を監護し生計を同じくする父母等であって「日本国内に住所を有するもの」と定めています。母子が海外転出すると母は対象から外れますが、父は要件を満たします。なお同項第2号には「父母指定者」の規定があり、これは父母の両方が日本国内に住所を有しない場合に意味を持つ制度です。母子留学で父が日本に残るのであれば、この指定は通常必要ありません。 ただし受給者を母から父へ変更する手続きは必要です。支給額・所得制限は改正が重ねられているため、市区町村の窓口でご確認ください

Q.健康保険はどうなりますか。母子だけ抜けることはできますか。

国民健康保険の資格は個人単位なので、母子だけ資格を失い、父の資格は動きません。 国民健康保険法第5条は「都道府県の区域内に住所を有する者」を被保険者と定め、第8条第1項は「住所を有しなくなつた日の翌日」から資格を喪失すると定めています。費用面では母子分の保険料が止まりますが、同時に母子は日本の公的医療保険が使えなくなります。現地の保険か海外旅行保険での備えが前提になるため、保険料が浮いた分をそのまま節約と考えないでください。なお、父が勤務先の健康保険に加入していて母子がその被扶養者になっている場合は取り扱いが変わります。 まず加入している保険の種類を確認してください。

Q.手続きはどの順番で進めればよいですか。

税を最優先にしてください。 順序としては、①期間を決める(短期で住民票を残すか、長期で海外転出届を出すか)→②勤務先の年末調整担当か税務署に扶養控除を確認する→③加入している健康保険の種類を確認する→④市区町村の窓口で住民票・児童手当を確認する→⑤在籍校と教育委員会に学籍を相談する、が実務的です。②を早く済ませる理由は、住民票や児童手当の手続きは渡航直前でも間に合うのに対し、扶養控除は「その年に何をしたか」で判定されるためです。とくに送金の記録が要件になる場合、渡航後に気づいても遡って作ることができません。なお市区町村では税務担当と子育て担当が別窓口のことがあるため、一度で済ませようとせず両方を回る前提で予定を組んでください。

Q.父と離れて暮らすことの負担が心配です。どのくらいの期間が現実的ですか。

期間そのものより「見直す時点を決めておくか」が効きます。 母子留学では、母は慣れない環境で子どもの生活と学校をすべて1人で担い、父は日本で家事と生活を1人で回すことになります。どちらも「一時的だから」で乗り切れる期間には限りがあります。出発前に決めておくとよいのは3点です。①連絡の頻度と時間帯(時差があるため「気が向いたら」では続きません)②父が渡航する時期(学期の区切りや長期休暇に合わせて先に予定を押さえる)③期間を見直す時点(「3か月経ったら続けるか話し合う」と決めておくと、つらくなったときに判断ができます)。また、目的が子どもの英語だけであれば、国内のイングリッシュキャンプなど家族が分かれずに済む選択肢と比べてみてください。母子留学に意味が出るのは、母側の目的も併存する場合です。

その先の進路から逆算する

母子留学を将来の留学・海外進学の入り口として考えているなら、その先にどのタイプが合うのかを知っておくと、期間や国の選び方も決まります。簡単な質問に答えるだけで方向性がわかります。