このページの要点

反対か賛成かで決めず、反対理由を7つに切り分けて「どの条件が満たされたら賛成できるか」を決めます。

  • 反対には根拠がある論点がある:米国の4年制大学にフルタイムで入学した学生のうち、同じ大学を4年で卒業したのは49.1%(NCES・2017年秋入学)。「4年で終わらないかもしれない」という不安は思い込みではありません。
  • 一方で事実と違う懸念もある:英国型の3年制学士でも、日本の大学院の入学資格になり得ます(学校教育法施行規則第155条)。「日本で通用しない」は正確ではありません。
  • ゴールは説得ではなく条件つき合意:費用の上限・撤退ライン・成績条件・連絡頻度を先に文章にしておくと、賛成しても反対しても家族が壊れません。

検索すると出てくるのは「反対する親をどう説得するか」という、お子さん向けの記事ばかりです。この記事は逆に、反対している/すぐには賛成できない保護者の側に向けて書いています。反対の理由を①費用 ②安全 ③卒業 ④学位 ⑤就職 ⑥本人の資質 ⑦退路の7つに分け、それぞれ公的データで「妥当な懸念」と「事実と違う懸念」を仕分けます。そのうえで、対立を条件交渉に変える手順を示します。海外大学進学そのものの全体像は海外大学進学ガイドをご覧ください。

本記事の統計・制度は、①米国教育省NCES「Digest of Education Statistics」表326.10 ②文部科学省「大学における海外留学に関する危機管理ガイドライン」 ③外務省 海外安全ホームページ・在留届/たびレジ ④学校教育法施行規則(e-Gov法令検索)にもとづく2026年8月時点の整理です。費用は当サイトの海外大学の学費と同じ数値を使っています。学費・要件・制度は大学ごと年度ごとに変わるため、志望校の公式サイトで必ずご確認ください。

結論:反対の是非ではなく「どの条件なら賛成できるか」を決める

POINT

反対の議論がこじれるのは、「行かせるか/行かせないか」という一問一答にしてしまうからです。反対理由を分解すると、それぞれ確認すべきことも、解消できるかどうかも違います。まず自分の反対がどれなのかを特定してください。

お子さんが「海外の大学に行きたい」と言い出したとき、多くのご家庭では理由を分けずにひとかたまりで反対します。しかし実際には、お金の話と安全の話と就職の話では、必要な情報も、解決の仕方も別物です。分けずに議論すると、お子さんは「何を言っても反対される」と感じ、保護者は「聞く耳を持たない」と感じます。ここで対立が固定されるのがいちばんもったいない。

反対理由 早見表:その懸念は妥当か、まず何を確認するか

反対の理由データ上の評価最初に確認すること
① 費用が出せない/見通しが立たない妥当。国により年80万〜950万円と10倍以上の開きがある国別の総額と、返済不要奨学金に応募できるか
② 安全が心配妥当だが対処可能。国・大学の体制で差が大きい志望校の危機管理体制、たびレジ・保険、連絡手段
③ 卒業できるのか妥当。米国で同じ大学を4年で卒業したのは49.1%(NCES)志望校の卒業率、留年時の追加費用、撤退ライン
④ 帰国後に学位が通用しないのでは制度面は事実と違う。3年制学士も大学院入学資格になり得る施行規則第155条の該当号、志望校の認証評価
⑤ 日本で就職できないのではやや事実と違う。海外大生向けの採用ルートが存在する新卒採用の時期のズレと、その埋め方
⑥ 本人にやり切れるのか妥当。ここだけは家庭にしか判断できない英語力・自己管理・相談する力の現状
⑦ 失敗したら戻る場所がない妥当だが設計できる併願(EDの制約)・編入・再受験という退路の有無

この表の見方は単純です。「妥当」の行は、反対を取り下げる必要がありません。代わりに「その懸念が解消される条件」を提示すればよい。「事実と違う」の行は、反対の根拠として使うと議論が壊れます——お子さんは事実を調べていることが多く、そこを突かれると保護者の話全体が聞かれなくなるからです。以降の章で、7つを順番に見ていきます。

論点①お金:「出せない」のか「見通しが立たない」のか

POINT

費用の反対は、「絶対額が無理」と「金額が読めないから怖い」の2つに分かれます。後者なら情報で解決できます。海外大学の年間総額は国によって80万円台から900万円台まで開くので、「海外大学=高い」という一括りが、そもそも判断を止めています。

当サイトで整理している国別の目安では、生活費を含めた年間総額はアメリカが約330〜950万円、イギリスが約350〜700万円(学部3年制)、マレーシアなら約100〜200万円、ドイツは州立がほぼ授業料無料のため約80〜200万円です。マレーシアの私立大学やドイツの州立大学は、日本の私立大学と同等かそれ以下に収まることもあります。つまり「海外大学に行きたい」という一言の中には、4年間で3,000万円を超える選択肢と、日本の私大より安い選択肢の両方が入っている。まずここを分けないと、費用の話は始まりません。詳細は海外大学の学費で国別に分解しています。

見落としやすいのは「4年で終わらない」ときの費用

そして、エージェントの資料にはまず書かれていない費用があります。留年・専攻変更・語学研修の追加による在学年数の延長です。後述するとおり、米国の4年制大学で同じ大学を4年で卒業した人は49.1%にとどまります。5年目・6年目が発生する前提は、けっして極端な仮定ではありません。年間400万円の大学なら、1年延びるだけで400万円が追加されます。「4年分の予算」ではなく「5年分に耐えられるか」で考えておくと、途中で家計が破綻しません。

費用の話をするときに家庭で決めておく4つの数字

決めること考え方決めておかないとどうなるか
① 家庭が出せる総額の上限4年分ではなく5年分で設定する在学中に「あと1年」が出てきたときに揉める
② 奨学金が取れなかった場合の扱い取れなければ国を変えるのか、進路を変えるのか合格後に資金計画が崩れ、辞退することになる
③ 本人が負担する部分アルバイト・貸与型を使うか、使わないか卒業後の返済が本人の進路を縛る
④ 為替が動いたときの対応円安局面でいくらまで許容するか毎年の送金額が想定を超えて家計を圧迫する

費用が最大の障壁なら、反対する前に奨学金の締切を確認するのが実は近道です。返済不要の奨学金は多くが高3の春〜夏に締切があり、大学の合格発表よりずっと早い。合格前に応募する「予約型」もあります。「受かってから考える」では応募機会そのものが消えます。給付額・所得条件・締切は海外大学の返済不要奨学金にまとめています。「奨学金に採用されたら賛成する」という条件は、費用が理由の反対をそのまま条件に変換できる、いちばん扱いやすい形です。

論点②安全:文科省のガイドラインを「保護者の確認リスト」に変える

POINT

安全の不安は「気持ちの問題」として片づけられがちですが、国が大学に対して危機管理体制の整備を求めている以上、保護者は志望校にその体制を質問してよい立場にあります。漠然とした不安を、確認できる質問に変えるのがこの章です。

文部科学省は外務省の協力を得て、「大学における海外留学に関する危機管理ガイドライン」を策定しています(本体の解説に加えて、別添のチェックリストが付く構成です)。柱は2つで、①学生自身が「自分の身は自分で守る」意識を持つこと、②大学が学内の危機管理体制を構築することです。体制側の項目には、外務省の危険情報に応じて注意喚起や留学継続の可否を判断する基準があるか、事件・事故の際に家族と連絡を取りサポートする体制があるかといった内容が含まれます。高校段階についても別に「高等学校等における海外留学に関する危機管理ガイドライン」があり、こちらは生徒・保護者向けのパートを持っています。

ここで重要なのは、これが「日本の大学が日本人学生を海外に送り出すとき」の枠組みだという点です。お子さんが海外大学に正規進学する場合、送り出す日本の大学は存在しません。だからこそ、同じ観点を保護者が自分で確認する必要があります。以下は、志望校のオープンデーやアドミッションへの問い合わせでそのまま使える質問です。

  1. 1緊急時に家族へ連絡が来る仕組みはあるか(誰から、どの言語で、どの連絡先に来るのか)。成人扱いの国では、大学が保護者に直接連絡しない運用もあります。
  2. 2留学生向けのサポート窓口とカウンセリング体制(メンタルヘルスを含む)。相談は無料か、待ち時間はどれくらいか。
  3. 3寮の安全管理(入退室の管理、深夜の対応、寮に住めるのは何年生までか)。
  4. 4医療へのアクセスと保険。大学指定の保険に強制加入か、日本の海外留学保険と重複しないか。
  5. 5在留届を提出したか。外国に住所や居所を定めて3か月以上滞在する場合、在留届の提出は旅券法上の義務です(下見や短期の語学研修など3か月未満の渡航は「たびレジ」に登録します)。
  6. 6周辺地域の治安情報を、大学の広報ではなく外務省の海外安全ホームページで確認したか。

避けたい

「危ないから反対」とだけ言い、具体的に何が危ないかを示さない

こうすればOK

「緊急時に親へ連絡が来る仕組みが確認できたら賛成する」と、確認可能な条件に変える

避けたい

治安の判断を、留学エージェントや大学の広報だけを見て行う

こうすればOK

外務省の海外安全ホームページで危険情報レベルを確認し、在留届(3か月以上)の提出を前提にする

論点③卒業できるのか:反対する側の懸念にはデータの裏づけがある

POINT

ここが、送客目的のサイトが絶対に書かない部分です。米国教育省NCESによれば、4年制大学にフルタイムで初めて入学した学生のうち、同じ大学を4年で卒業したのは49.1%、6年以内でも64.5%(2017年秋入学のコホート)。「4年で終わらないかもしれない」は、思い込みではなく統計的に起こりうる話です。

6年卒業率の内訳を見ると、公立大学が63.4%、私立非営利大学が68.5%、私立営利大学が32.3%と、設置形態で大きく違います。この数字を読むときの留保も正確に押さえてください。第一に、これは米国の学生全体の数字で、日本人留学生に限った統計ではありません。第二に、いずれも「入学したのと同じ大学で学位を取った割合」であり、他大学へ編入して卒業した人は「非卒業」に数えられます。つまり「64.5%だから3割強が学位を取れない」と読むのは行きすぎです。それでも、4年で終わるのは約半数という事実は動きません。日本の大学の感覚(入学すればほぼ4年で卒業できる)をそのまま持ち込むと、資金計画が狂います。

米国4年制大学の卒業率(NCES・2017年秋入学のフルタイム初回入学者/同一校での学位取得)

区分卒業率保護者としての読み方
全体・4年以内49.1%4年ちょうどで終わるのは約半数。予算は5年分で組む
全体・5年以内61.7%1年延びるだけで学費・生活費が1年分まるごと乗る
全体・6年以内64.5%5年目から先の伸びは小さい。長引くほど戻りにくい
公立(6年)63.4%州立でも同様。大規模校ほど手厚い伴走は期待しにくい
私立非営利(6年)68.5%少人数校は面倒見がよい傾向。ただし学費は高い
私立営利(6年)32.3%この区分は進学先として慎重に検討する必要がある

では保護者は何をすればよいか。志望校の卒業率(graduation rate / retention rate)を出願前に調べることです。米国なら、教育省のCollege Scorecard(collegescorecard.ed.gov)やNCESのCollege Navigator(nces.ed.gov/collegenavigator)に大学名を入れるだけで、卒業率と1年次の在籍継続率を無料で確認できます。同じ「アメリカの大学」でも学校によって数十ポイント違うので、ここを見ずに議論しても意味がありません。そして家庭内で決めておくべきなのが撤退ラインです。「単位を落として2学期連続で規定の成績を下回ったら日本に戻る」「学費の追加が◯年分を超えたら打ち切る」といった線を、渡航前に、穏やかな状態で決めておく。追い詰められてから決める撤退は、必ず親子の関係を傷つけます。先に決めておけば、それは罰ではなく最初から共有していたルールになります。

論点④学位:海外の学位は日本で通用するのか

POINT

「海外の大学を出ても日本では通用しない」という懸念は、制度面に関しては事実と異なります。ここを反対の根拠にすると、お子さんに「調べていない」と受け取られて議論の主導権を失うので、正確に押さえておきましょう。

日本の大学院への入学資格を定める学校教育法施行規則第155条第1項は、第2号で「外国において、学校教育における十六年の課程を修了した者」を挙げています。米国の4年制大学(小中高12年+大学4年=16年)はここに該当します。さらに第4号の2は、外国の政府や関係機関の認証を受けた評価機関の評価を受けた外国の大学等で、修業年限が3年以上の課程を修了して学士に相当する学位を授与された者も対象としています。つまりイギリスやオーストラリアの3年制学士でも、日本の大学院に進む資格になり得ます。加えて第8号には、大学院が個別の入学資格審査で認めるという道も用意されています。

確認ポイント:第4号の2は「認証を受けた者による評価を受けた」学校に限られます。海外には認証(アクレディテーション)を受けていない学校もあるため、志望校がその国の正規の認証評価を受けているかは出願前に必ず確認してください。また、実際の入学可否は各大学院が判断するため、進学を考えている研究科の募集要項で資格要件を確認するのが確実です。

論点⑤就職:「できない」のではなく「時期がずれる」

POINT

帰国後の就職も定番の心配です。実態は「できない」ではなく、日本の新卒一括採用とスケジュールが合わない。仕組みは用意されていますが、日本の学生とは違う準備が要ります。

日本の新卒採用は大学3年後半から動き、4年の春〜夏に内定が出ますが、海外大学は卒業が5〜6月で学年暦がずれます。このズレを埋める仕組みとして、株式会社キャリタス(2024年4月に「ディスコ」から商号変更)のグループが主催するボストンキャリアフォーラムをはじめとする海外大生・留学経験者向けの就職イベントがあり、外資系から日系大手商社・メーカーまで毎年200社近くが参加します。ロサンゼルスやロンドンでも同様の場が開かれています。詳しくは海外大学と国内大学はどっちを選ぶべきかで整理しています。

ただし公平を期すなら、この仕組みに乗るには在学中から準備が要ることも押さえてください。参加要件そのものは「学士以上(取得予定を含む)」と日英両語の基礎力で、けっして高くありません。ハードルがあるのは要件ではなく選考の側です。多くの企業が開催の数ヶ月前から書類選考と面接予約を進めており、その場に間に合うよう自分でスケジュールを追う必要があります。「卒業すれば自動的に就職できる」わけではないという意味では、保護者の心配は的外れではありません。正確には、「就職できないのではなく、日本の学生とは違う準備が必要」です。これも条件にできます——「大学2年までに帰国就職の仕組みを自分で調べて説明できること」といった形で。

論点⑥本人の資質:ここだけは家庭にしか判断できない

POINT

データで代替できない唯一の論点です。英語力よりも、「困ったときに自分から助けを求められるか」のほうが結果を左右します。海外の大学は、日本の高校のように誰かが気づいて声をかけてくれる場所ではありません。

海外大学で行き詰まるお子さんに共通するのは、語学力の不足そのものよりも、不調を抱え込んで誰にも言わないことです。授業についていけない、ルームメイトと合わない、体調が悪い——こうしたとき、教授のオフィスアワーに行く、学生課に相談する、カウンセリングを予約する、という行動が取れるかどうかで結果が変わります。逆に言えば、この力は高校生のうちに練習できます。「担任に自分から相談した経験があるか」「バイト先や部活で交渉した経験があるか」は、英検のスコアより意味のある材料です。

  • 確かめたい力:自分から質問・相談ができる/予定と締切を自分で管理できる/お金の出入りを把握している/体調不良を早めに申告できる
  • まだ不安な場合の選択肢:まず高校留学や短期のプログラムで家を離れる経験を作る/国内大学に進んで交換留学で試す/大学院で海外に出る
  • 英語力は条件にしやすい:出願要件のスコアを◯月までに取ることを合意の条件にすると、本気度と実力が同時に測れる

なお、「本人の資質が心配」を理由に反対するときは、言い方に注意が必要です。「あなたには無理」は人格否定として受け取られ、そこから先の対話が成立しなくなります。同じ内容でも「今の時点でこれができていないから心配している。これができたら賛成する」という形にすれば、反対がそのまま目標に変わります。

論点⑦退路:やめたくなったとき、戻る場所はあるか

POINT

保護者が本当に恐れているのは「失敗すること」ではなく、「失敗したときに何も残らないこと」であることが多い。ならば、反対する代わりに退路を設計するほうが建設的です。

退路にはいくつかの形があります。第一に、日本の大学との併願。海外大学と日本の大学は出願・合格発表・入学手続きの時期が異なるため、組み合わせによっては両方に出願できます。ただしアメリカのEarly Decisionに出願して合格すると、他の出願を取り下げる約束になるため、その時点で併願そのものができなくなります。日程が重なる場合は入学金などが二重にかかるので、「できるか」より「いくら置いていく覚悟があるか」が実際の論点です。日程の衝突とお金の重なりは海外大学と日本の大学の併願で1枚に整理しています。第二に、編入・再受験。なお帰国子女枠(帰国生入試)は、多くの大学が「最終学年を含む2年以上の現地校在籍」などを要件としており、日本の高校を出て海外大学に進んだお子さんが途中で帰国しても、原則として対象になりません(要件は帰国子女枠と高校留学を参照)。退路として数えないでください。第三に、日本の大学に進んでから交換留学や大学院で海外に出るという順番の入れ替えです。

退路を用意することは、お子さんの決意を疑うことではありません。むしろ「戻ってきていい」と最初に伝えておくほうが、現地で無理をして壊れるのを防ぎます。撤退ラインとセットで、「こうなったら戻る、戻ってきたらこの道がある」まで書いておく。これが保護者にしかできない仕事です。

二択にしない:どの反対理由が、どの折衷ルートで解けるか

POINT

「海外大学に行く/行かない」の二択にした瞬間、どちらが勝っても家族のどちらかが我慢することになります。間の選択肢を全部出してから決めると、合意できる余地が生まれます。

残った反対理由は、どの折衷ルートなら解けるか

まだ解けていない反対理由有効な折衷ルート解けない理由(そのルートでは残るもの)
① 費用が出せない費用の安い国の大学(マレーシア・ドイツ等/年約80〜200万円)英語での学習量は変わらない。③卒業できるかの懸念は残る
② 安全が心配/⑥本人にやり切れるか国内大学に進んで交換留学(半年〜1年)で試す学位は日本の大学のもの。④学位・⑤就職の論点は消えるが、目的が「海外で学位」なら不満が残る
① 費用+⑥本人の資質国内の学部 → 海外の大学院本人の希望が「今」なら受け入れられにくい。時期の合意が別途必要
⑦ 戻る場所がない海外大学と日本の大学の併願Early Decisionを使うと併願自体が不可能。入学手続きの二重払いも発生し得る
② 安全+⑦ 退路国内の国際系学部・海外大学の日本校海外生活の経験は得られない。①費用は国内私大並みかやや上

この表の使い方は、「代わりにこれにしなさい」と出すのではなく、残っている反対理由の番号を指して、それが解けるルートを一緒に探すことです。保護者が一方的に代替案を出すと妥協案に見えますが、①〜⑦のどれを解くための案なのかが明示されていれば、交渉のカードとして機能します。同時に、そのルートでも解けないものが残ることまで見せておくと、お子さんの納得感がまったく違います。ルートそのものの比較は海外大学と国内大学はどっちを選ぶべきかを、国内の国際系学部については国際系学部の学費・留学必修の比較をご覧ください。

国別に4年間の総額を試算してみる

行き先と期間を入れると、学費と生活費の目安を概算できます。「反対」と言う前に、実際にいくらなのかを数字にしてみると、話し合いの土台が変わります。

対立を「条件つき合意」に変える5ステップ

POINT

ここまでの7論点を、実際の話し合いに落とします。やることは反対の取り下げでも説得への屈服でもなく、「何が満たされたら賛成するか」を文章にすることです。

  1. 1反対の理由を紙に分けて書く:7論点のどれなのかを保護者自身が特定する。複数あるなら優先順位をつける。ここを飛ばすと話が堂々めぐりになります。
  2. 2「事実と違う懸念」は自分で取り下げる:学位の通用性や就職の可否など、調べて誤解だと分かったものは先に取り下げる。これをやると、残りの懸念が真剣に扱われます。
  3. 3残った懸念を条件に翻訳する:「お金が心配」→「◯◯奨学金に採用されること」。「安全が心配」→「緊急連絡の仕組みを確認できること」。「続くか心配」→「◯月までに出願要件のスコアを取ること」。
  4. 4撤退ラインと退路を同時に決める:どうなったら戻るのか、戻ったらどの道があるのかを書く。合格後ではなく、出願前に決めるのが肝心です。
  5. 5期限を決めて見直す:条件は一度決めたら終わりではありません。「高3の夏に再検討する」と決めておけば、状況が変わったときに揉めずに調整できます。

避けたい

「うちにはそんなお金はない」で会話を終わらせる

こうすればOK

「出せる上限は◯◯万円。それを超える分をどう埋めるかを一緒に考えよう」と、金額を明示して交渉可能にする

避けたい

「そんなに行きたいなら勝手にすれば」と突き放す

こうすればOK

反対の理由を具体的に伝えたうえで、賛成できる条件を1つでも提示する(反対のままでも対話は続けられる)

避けたい

合格が出てから資金計画と退路を考え始める

こうすればOK

出願前に、費用の上限・撤退ライン・併願の有無を家族で文章にしておく

それでも反対を貫いてよいケース

POINT

中立の立場で書くなら、これも書かなければ不誠実です。反対を通すべき状況は実在します。大切なのは、反対する理由を本人に正確に伝えることです。

  • 家計が実際に耐えられない:在学中の5年分を試算しても資金が足りず、奨学金も取れる見込みがない。無理をして進学し、途中で資金が尽きるのが最悪の結末です。
  • 目的が「日本の受験から逃げたい」だけ:海外大学は入学後の学習量が多く、逃避の受け皿にはなりません(ただし、日本の学校が合わないこと自体は正当な動機になり得ます)。
  • 志望校が認証評価を受けていない:学位が学位として扱われない可能性があります。ここは妥協すべきではありません。
  • 渡航先の安全情報が高いレベルにある:外務省の危険情報を確認し、レベルが上がっている地域は時期そのものを見直す。
  • 本人が情報を一切集めていない:憧れだけで、学費も出願要件も調べていない段階なら、「調べてからもう一度話そう」が正しい対応です。

逆に、「なんとなく不安だから」「周りにいないから」だけを理由に反対し続けるのは避けたいところです。高校留学に反対したいときの考え方は子どもの留学に反対したいときでも扱っています。大学進学の場合は費用の桁と本人の年齢が違うため、保護者が管理するのではなく、条件を合意して本人に運用させるという関わり方に切り替えるのが現実的です。

まとめ:反対のままでも、条件は作れる

「海外の大学に行きたい」と言われてすぐに賛成できないのは、保護者として当然の反応です。費用の不透明さも、卒業できるかという不安も、データの裏づけがあります。一方で、学位の通用性や就職の可否には事実と違う思い込みも混ざっています。この2つを混ぜたまま議論すると、対立だけが残ります。

やることは3つです。①反対の理由を7論点に分ける ②事実と違うものは自分で取り下げる ③残ったものを「賛成できる条件」に翻訳する。そして撤退ラインと退路を、出願前の落ち着いているうちに文章にしておく。ここまでできていれば、最終的に行かせても行かせなくても、ご家庭の判断として説明がつきます。次のステップは、費用を海外大学の学費で国別に確かめること、そして返済不要の奨学金の締切をカレンダーに入れることです。出願そのものの流れは海外大学の出願方法にまとめています。

ご家庭に合う進路のタイプを整理する

目的・費用・本人の性格から、海外大学・国内大学・折衷ルートのどれが合いそうかを診断できます。話し合いの前に、選択肢を並べる材料としてお使いください。

Q.子どもが海外大学に行きたいと言いますが、費用が理由で反対しています。伝え方はありますか?

「お金がない」で終わらせず、出せる上限額を数字で示すのがおすすめです。金額が出れば、その差をどう埋めるか(返済不要の奨学金に応募する、費用の安い国に候補を広げる、本人が一部を負担する)という交渉に変わります。海外大学の年間総額は国によって約100万円から950万円まで開くので、「海外大学」とひとくくりにせず、国別に試算してから話すと議論が具体的になります。奨学金の多くは高3の春〜秋に締切があり、合格発表より早い点にもご注意ください。

Q.「海外の大学を出ても日本では通用しない」と言ってしまいました。これは正しいですか?

制度面では正確ではありません。学校教育法施行規則第155条第1項は、外国で学校教育における16年の課程を修了した者に加え、認証評価を受けた外国の大学等で修業年限3年以上の課程を修了して学士に相当する学位を授与された者にも、日本の大学院への入学資格を認めています。イギリスやオーストラリアの3年制学士も対象になり得ます。ただし志望校がその国の正規の認証評価を受けていることが前提なので、そこは必ず確認してください。

Q.本当に卒業できるのか心配です。データはありますか?

米国教育省NCESのDigest of Education Statistics表326.10によると、2017年秋に4年制大学へフルタイムで初めて入学した学生のうち、同じ大学を4年で卒業したのは49.1%、6年以内でも64.5%です(6年の内訳は公立63.4%・私立非営利68.5%・私立営利32.3%)。ただしこれは米国の学生全体の数字で日本人留学生に限ったものではなく、他大学に編入して卒業した人は「非卒業」に数えられます。それでも「入学すればほぼ卒業できる」という日本の感覚のままでは資金計画が狂うため、5年分の費用に耐えられるかと、どうなったら撤退するかを先に決めておくことをおすすめします。

Q.安全面が心配です。保護者は何を確認すればよいですか?

文部科学省が外務省の協力を得て策定した「大学における海外留学に関する危機管理ガイドライン」では、危険情報に応じた留学継続の可否の判断基準や、事件・事故の際に家族と連絡を取る体制を大学に求めています。これは日本の大学が学生を送り出す場合の枠組みですが、正規進学の場合は保護者が同じ観点を志望校に確認することになります。緊急時に家族へ連絡が来る仕組み、留学生向けの相談窓口、医療と保険、寮の管理体制の4点を質問し、あわせて外務省の「たびレジ」(3か月以上の滞在は在留届)の登録を前提にしてください。

Q.反対したら「勝手にする」と言われました。どう対応すればよいですか?

感情の対立になっている状態なので、いったん論点を紙に分けることをおすすめします。費用・安全・卒業・学位・就職・本人の資質・退路の7つのどれが心配なのかを保護者自身が特定し、そのうち調べて誤解だと分かったものは先に取り下げてください。保護者が一つでも取り下げると、残りの懸念が真剣に扱われるようになります。そのうえで「これが満たされたら賛成する」という条件を1つ提示すると、対立が交渉に変わります。

Q.行かせることにした場合、渡航前に決めておくべきことは何ですか?

①家庭が出せる総額の上限(4年分ではなく5年分で設定)②奨学金が取れなかった場合にどうするか③撤退ライン(成績や資金がどうなったら日本に戻るか)④戻ったときの進路(編入・再受験・国内大学)⑤連絡の頻度と方法、の5点です。すべて出願前の落ち着いているうちに文章にしておくのが肝心で、追い詰められてから決める撤退は親子の関係を傷つけます。日本の大学と併願する場合は、入学手続きの締切が重なることで生じる二重払いも先に見積もっておいてください。

Q.海外大学に行かせない代わりに、何か提案できる進路はありますか?

「行く/行かない」の二択にしないことがコツです。費用の安い国(マレーシア・ドイツなど年約100〜200万円)の大学、国内大学に進んで交換留学、国内の学部から海外の大学院、海外大学と日本の大学の併願、国内の国際系学部——といった中間の選択肢があります。ただし保護者が一方的に「代わりにこれ」と出すと妥協案に見えるので、選択肢として並べて一緒に比べるほうが合意しやすくなります。